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Mac ON! 1998 May
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Mac ON! GALLERY
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岡山県 藤井健喜
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Weekend Hero 2 for R'S GALLERY
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WH213
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1998-03-27
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25KB
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387 lines
第一三話
楽しく覚える巨大ロボット
Introductry Remarks
田辺奈美と吉野冴子の二人は高校生、そして麻生ちづるは中学生である。
あるとき、田辺浩一の開発した『ヒーロー変身薬』を飲んでしまったこの三人は、ビキニスタイルの恥ずかしい格好のヒーローとなって、世界征服を企む悪の秘密組織『ダークブリザード』と戦うことになる。
人は彼女たちのことを『ウイークエンド・ヒーローズ』と呼ぶ。
果たして今回、彼女たちを待ち受けているものは一体何なのか…?
1
木曜日が過ぎて、今は金曜日の夜である。毎日寒い日が続いていたりする。まあ、冬なんだから仕方ないが。
東児島大学のインターネットのアドレスが変更になったらしく、そのことを伝える電子メールが浩一の自宅のパソコンに舞い込んだ。たまたま奈美といつものメンバーがたむろしていた。
「どうしてなの?」その理由を奈美が訊いた。
すると浩一が口を開いた。「それがだな—」
何でもそれまでのホームページアドレス(アクセスURL)を入力するとなぜかアダルト関連のホームページが表示されてしまうのだ。
「見てろよ…ほら」兄はコンピュータを操作する。「こんな写真もある」ブラウザに画像が表示される。
「ちょ、ちょっとお…!」妹は真っ赤になる。
「うわ、モロだ…」俊雄が身を乗り出していった。
呆れた顔して直子がいう。「—誰がこんなことしたのよ…」
「わからない」と浩一。「とにかくこれからは本体のアドレスを隠して、エイリアスのアドレスを作ってそちらからリンクさせるようにするそうだよ」
「それとプロテクト機能を強化しないとならないみたいだな」俊雄がいった。でも目は画像に釘付け。
「そうだな」浩一もうなずいた。
「何だかカタカナ用語ばっかりの会話ね」直子がいった。
「そうかなあ?」首をひねる浩一。
「わかりにいと思っている読者も多いんじゃないかしら?」直子がいう。
俊雄が口を挿んできた。「PC関連は、そういう言葉が定着してしまっている世界だから、仕方ないんだけどな」
ちなみに、先の浩一の台詞をカタカナ語を使わずにいうとするならば、
「わからない。とにかくこれからは本体の住所を隠して、別名の住所を作ってそちらからつなげさせるようにするそうだよ」
ということになるだろうか。
どちらにせよ、わかりにくいのだ。
奈美は兄たちの会話をよそに部屋をあとにする。
2
奈美が部屋を出たときだった。
辺りを包み込むような重低音。そして振動。
〈え? なに…?〉奈美は不安になる。
悲鳴が聞こえてきた。駅の方角だ。
奈美は顔を向ける。
そこには、巨大な人の頭が動いていた。
〈え…!〉奈美は凝視する。
いや、人ではない。メタリック調の表面仕上げ。動くたびに響く金属音。おお、これはロボットではないか!
まさか、また現れたのか—!
奈美はふと背筋に寒いものを感じた。
描写するまでもなかろう。再び東児島市内に巨大ロボットが出現したのだ。
ではここで、読者だけに解説を加えておく。これはダークソルジャー2(つー)である。今回は巨大な人型のロボットであった。町で破壊の限りを尽くしている。パイロット乗り込み式。そのパイロットはビクトリーガール。でも奈美にそこまではわからない。
「奈美!」ドアを開け、浩一が出てきた。「あ、まだいたか」
「お兄ちゃん!」振り向く奈美。メカを指差し、「あんなものが…!」
「他の二人にも連絡したぞ」俊雄が顔を見せる。
「わかった」うなずく浩一。それから奈美にいう。「頼む。あの巨大メカを退治してくれ」
「う、うん」奈美はかぶりを振ると変身のポーズを取った。「Changing a HyperGirl !」
光の帯が回り、ビキニ姿の女の子が現れた。
彼女はそのまま飛び立った。
奈美を見送ったあと、浩一は横にいた俊雄に訊いた。「ところで、直子さんはどうしたの?」
「倒れて寝込んでる」
「え?」浩一はきょとんとする。「どうして?」
「わからない」
「え?」
「とにかく、ロボットをみて倒れちまった」顔の長い男がいう。「単にびっくりしただけだとは思うがな」唐突だったし。
「うーん。困ったな」浩一はうなった。「直子さんにも奈美たちのサポートをしてもらおうと考えていたのに」最近浩一ひとりですべてを行うにはかなりの無理が生じていた。「何せ三人もいるからな」
「まあ、何とかなるだろう」と俊雄。「あの三人のうちのひとりがリーダーシップを発揮しさえすれば、チームとしてまとまった行動がとれるはずだ」
「ひとりが?」
「そうだ」
「じゃあ、それは誰なんだ?」
「う、うーん…」俊雄は悩んだ。「やっぱり、奈美ちゃんかな」
「問題だなぁ」溜息をつく浩一。「あいつにそんなことを期待するのは—」
「そうかなあ?」
首を傾げる俊雄をよそに、浩一は黙ってしまった。
一方。
ハイパーガールは空で連絡を受けた2号、3号とおちあう。
「さあ、行くわよ!」彼女がいった。
「了解!」二人はうなずいた。
ロボットは町で暴れていた。
ダークソルジャー2。先の一号機での敗戦を教訓として、小出達夫が再び開発した戦闘用ロボットである。身長約九八メートル。体重九〇〇〇トン。
ビクトリーガールの乗るひとり用ジェット機が、このロボットの中央部の空きスペースに組み込まれると、それがこのメカのコックピットになる。
各種操縦装置は、ビクトリーガールが強い力を入れても壊れないように強度設計されている。だから祐子は変身していないと、この乗り物を操縦することが出来ない。操縦桿が重たすぎるのである。
それに、変身していないと、コックピット内で頻発する衝撃に耐えられない。
ちなみにジェット機はロボットからの緊急離脱が可能。
そのメカに向かって声がかけられた。
「東児島の空のした、今日も誰かが呼んでいる」
「悪い奴等を懲らしめる、正義の味方の女の子」
「人呼んで、ウイークエンド・ヒーローズ!」
ウイークエンド・ヒーローズがやってきたのだ。「只今見参!」と全員でいって、合わせてポーズを決める。
「来たわね…」コックピットで祐子がいった。
クラブとリングがメカに命中する。鈍い音。クリティカルヒットであったらしい。メカから鈍い音がした。機械から煙があがる。煙は辺りに立ちこめ煙幕と化した。
「あれ?」あまりの弱さに調子の狂う三人。空中で呆然としている。
「弱いわね」冴子がいった。
「ふふっ」祐子はほほえむ。「今回はそう甘くはないわ…!」パネル横の四角いボタンを押す。「いざ、変形!」
煙幕の奥で、人型のロボットは激しい音とともに変形を始めた。
煙がはれた。
みると、目の前には巨大なタコ型の機械が姿を現していた。
奈美たちは言葉をなくした。
「なぜ変形したあとのほうがブサイクになるの…?」ぶつくさと冴子がいった。変形する前のほうがかっこいいと思った。
「え〜い、うるさいわね!」ビクトリーガールは内心悔しかった。「そんな余裕をかましてられるのも今のうちだけよ」自分を慰めるようにいう。「このダークソルジャー2の恐ろしさ、たっぷりと思い知るがいいわ…」
「とにかく、戦うわよ!」
ハイパーガールは仲間を鼓舞する。彼女は自らタコ型のメカにハイパークラブを投げつけた。二つとも。だがブヨブヨとした弾力のある皮膚にはじき返される。返ったこん棒がハイパーガールの顔面とおなかを直撃した。
「うわあ!」痛みに体勢を崩すハイパーガール。
「ハイパーガール!」エクセレントガールが助けんと寄ってきた。メカの足が伸びてくる。足は二人のヒーローをまとめて捕まえ、縛ってしまった。
〈あっ…!〉焦るエクセレントガール。エクセレントリングも手放してしまった。
ちょうど二人は急激に引き寄せられた。その勢いで二人の唇が重なった。
慌てて唇を離すエクセレントガール。せき込んでいる。
「エクセレント…ガール!」奈美は驚いていた。と同時に真っ赤になっていた。「何するのよ!」
「私のせいじゃないわよ!」怒る冴子。「汚らしい…!」
「そんなに私のことが好きなら—」奈美がいう。「ちゃんと交際を申し込んでからにして欲しいわ」
「え…?」冴子は目が点になる。
話がずれていた。
「おやおや、お熱いこと」モニターからその様子を見ていたビクトリーガールだった。
「私、そんな趣味ないから」冴子は独りごつ。
「なあんて、冗談よ」といって奈美は笑った。
敵に捕まっているのに割合のんきな二人であった。
冬の夜は風が冷たい。
一方では、タコの足がコンプリートガールを捕らえていた。
〈く、苦しい…!〉もがく3号であったが、身動きひとつ取れないでいた。武器も役に立たない。
「ふふっ」祐子は笑みを浮かべた。
「おい、ビクトリーガール」無線から声がした。達夫だった。
「何でしょう? コーチ」
「お遊びはもういい」と達夫。「さっさとカタをつけろ」
連絡が切れた。
「じゃあ、そろそろとどめを刺そうかしら」
祐子は脱出用とかかれたレバーの横にある丸いボタンを押した。
足に電流が流れた。
「あああっ!」
三人のヒーローは悲鳴をあげた。
やがて三人は失神してしまった。
足から離れる。彼女たちはそのまま地上へと転落してゆくのだった。
「ふっ…」達夫はダークブリザード本部で、自分のノートPCの画面をのぞき込んでいた。満足そうだった。「ウイークエンド・ヒーローズ、破れたり!」
タコの怪物は飛び去っていった。
戦いの一部始終をみた浩一は愕然となった。
「そんな、そんなことがあっていいのか…!」彼は叫んだ。「正義の味方は負けないはずだぞ!」
俊雄はコメントを控えた。
冬の日のことである。
3
翌日。
学校が終わってからのことだ。奈美は冴子とちづるを二高近くの公園に呼び出していた。奈美と冴子は学生鞄を提げている。ちづるは校章の入ったナップサックを背負っている。
「どうしたんよ、こんなところに呼び出して」冴子が訊いた?
「実は、みんなに話しておきたいことがあるの…」奈美がいう。心なしか元気がない。
そういえば、今日は朝から元気がなかったなと思う冴子であった。「何よ?」冴子が顔を向ける。
「昨日、あのメカに負けたのは、私のせいだわ…」奈美が静かに話し始めた。
「何ですか、先輩」ちづるがいう。「いきなりそんなこといったりして?」いつもの奈美らしくないようにみえたからだ。
それでも奈美は話を続ける。「私がしっかりさえしていれば、勝てたかもしれないのに—」
「先輩…」急に切なそうな感じで彼女を見るちづる。「悔しいのは先輩だけじゃありません。私たちだって悔しいんです」これが彼女の本音だろう。
「私、ウイークエンド・ヒーローズのリーダーとしての資格がないのよ」奈美がぽつりといった。
「え?」ちづるは自分の耳を疑った。そうは思えないからだ。
「私、もう決めたの」奈美がいった。「ハイパーガールを辞めるわ」
冬の風が肌に冷たい。
「え…!」ちづるは目を見開く。「先輩、そんな—!」何とか引き留めようとする。そんなの嫌だ。そう思うちづるだ。
「でも、わかって。ちづるちゃん…」訴えかける目。
「先輩、辞めないでください!」
「辞めたければ辞めればいいじゃない」
そんな声がした。冴子だった。
奈美は冴子を見る。
冴子は一回咳払いをすると、こういった。「奈美、あんたは無責任ね。ちょっと自分が負けたからって、逃げるの? そんなの卑怯なやつのすることよ! あなたはダークブリザードとおんなじだわ」そして吐き捨てるようにいった。「意気地なし!」
「冴子…!」さすがに、少し頭にきた奈美だった。
「悔しいと思うのなら、もう一度戦いなさいよ。逃げてばかりいたんじゃ、ただの弱虫よ。そうよ、あなたは弱虫なんよ!」
「どうせ私は弱い人間よ。ちょっとした挫折ですぐ弱気になってしまう駄目な女なのよ!」
「やめてください、二人とも!」ちづるが叫ぶ。だが効果はなかった。
だんだんと険悪な雰囲気になってゆく奈美と冴子。
「そうだわ奈美、こんなのはどう?」冴子が提案する。「私と奈美と、どっちが強いか戦うのよ!」
「えっ!」奈美が声をあげる。
冴子は笑う。「私がそのあなたの腐った根性を叩き直してあげるわ」
ちづるが驚いていう。「吉野先輩!」
「日時は今日よ!」冴子は意気込んでいった。「今日の午前零時! 逃げないでね」それって明日では?
「私も行きます!」ちづるがいった。
「あんたは駄目」冴子が制した。「これは私と奈美との勝負なんだから」
ちづるは静かになった。急に「もう、知りません!」というと、ひとり帰っていった。ちづるは二人を止める力すらない自分を呪った。
しばしの沈黙が流れた。
冴子は奈美に一瞥をくれると、そそくさとこの場をあとにした。
奈美は黙っていた。
冬の日のことである。
4
その後。
冴子は帰ってから、生理が始まってしまった。
〈なんでこんなときに…〉
と思ったところでもう遅い。
これを気にする冴子は、変身したビキニの上からトレーナーのスーツとズボンとを着る
ことにした。
実は、はじめ多い日も安心という横漏れ防止ギャザーのついたナプキンを身につけていた。コンパクトなサイズで薄いやつだ。
ところが、変身するとなぜだかそれを無視してビキニスタイルになってしまっていた。つけていたものはすべて消えてしまうのだった。これでは困る。コスチュームの発汗機能で、漏れが生じるからだ。これは情けない。
結果彼女は方針を変えた。仕方なく、彼女はビキニの上から衣服を着込んだのであった。
トレーナーは上下とも姉のお下がりである。だから万が一汚れたとしても彼女はかまわなかったし、ハイパーガールの攻撃でボロボロになったとしても大した損害にはならないと思った。
冴子は変身後、一度マントを消してトレーナーを着た。今日はさしてマントの必要のないと感じた彼女は、マントを消しておくことにしたのだった。
時は流れた。
同じ日の真夜中。風が強くなっていた。肌を刺すような冷たさだ。
場所は、市内のとある海岸の砂浜。
ここで、ハイパーガールとエクセレントガールが対決することになる。
「来たわね…」エクセレントガールがいった。
「エクセレントガール、なぜそんな婆くさい格好してるの?」
「ちょっと寒いだけよ」エクセレントガールがいった。嘘である。「今、はやりなんだから。この格好は」強がっている。
「…」ハイパーガールは何もいえなくなる。
「武器は置きましょう」といって2号は武器を砂の上に投げた。
「え?」不思議がる奈美。「どうして?」
「素手で戦うのよ」素っ気なく冴子がいう。「お互いの肉体をぶつけ合ってこそ、勝負ってもんでしょ?」そうか?
「わかったわ…」同じく武器を手放すハイパーガールだった。
「さあ、行くわよ!」エクセレントガールが身構える。
「え…?」
エクセレントガールはハイパーガールのおなかを殴った。
「うぐっ!」膝をつくハイパーガール。
冴子は後ろから奈美をつかんで持ち上げる。そして奈美のお尻を、曲げた自分の膝の上に落とした。
「あうっ!」奈美は体を弓のように曲げてお尻を押さえ飛び跳ねた。
冴子は逃げるハイパーガールを捕まえる。
「いやあ!」叫ぶ奈美。よほど痛かったからである。
生理のせいで少しイライラしていた冴子。彼女はこれでストレスを発散しているようにもみえた。
エクセレントガールは奈美を再度高々と持ち上げた。そして背中から自分の膝の上にたたきつけた。鈍い音がした。
「あああっ!」ハイパーガールの悲鳴。
冴子は奈美を離した。奈美は砂の上に倒れた。のたうち回っている。
奈美は泣き出した。
「泣いても駄目よ」冴子は冷たくいった。「これでも手加減しとるんよ。ちょっとは感謝してね!」
奈美は静かに立ち上がった。
「こんなの、いや…」奈美はいう。
「さて、そろそろフィニッシュね」冴子がいった。「これであんたをいかせてあげる!」といって走り込んできた。エクセレントクラッシャーを仕掛けるつもりだ。
「こんなの—」
ハイパーガールは冴子に対して腕を振り回した。
「いやあああ!」
ハイパーガールが振り回した腕は、やってきたエクセレントガールを一撃した。見事に急所に命中したらしく、冴子は顔をゆがめた。具体的には鳩尾(みぞおち)を直撃したようである。
「はうっ…!」冴子は静かに砂の上に倒れ込んだ。同時に彼女はズボンが汚れてきたことを悟った。最悪だった。
奈美は呆然とした。いったい、なぜ冴子が倒れたのかわからなかったからだ。
冴子はこのとき、やはり奈美は強いんだと感じた。リーダーはハイパーガールだと判断した。
だが、まぐれ当たりだったのは、いうまでもない。
「冴子!」しゃがみ込むハイパーガール。目が真っ赤だった。「大丈夫…!」
「奈美」未だ苦しそうな声で冴子がいう。「やっぱり、ウイークエンド・ヒーローズのリーダーはあなたしかいないわ—」
「冴子…!」奈美がいう。「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫よ…」そういってほほえむ。「あなたのパンチ、効いたわよ…」
「私の、パンチ…?」不思議に思う奈美。あれは別にパンチのつもりでは—
「自信を持って、奈美」冴子がいう。ようやく立ち上がる。
奈美はうなずいた。「わかったわ」そしていう。「もう、ハイパーガールをやめるなんていわないわ」涙を拭う。
「ありがとう、奈美」冴子は手を差し出す。
奈美は冴子と握手した。
固い握手を交わした。
二人の体から湯気がたちのぼっていた。
不意に拍手が聞こえた。
「誰!」
冴子が振り向くと、そこには黄色いビキニを着た女の子の姿があった。
「コンプリートガール」冴子は呆れた。「来るなといったのに—」
が、こうなることははじめからわかっていたことではあった。
その一方で冴子は早くこの場を去りたかった。衣装が濡れて気持ち悪いのだ。
凍える冬の夜である。
5
二日後。日曜日になった。
外は晴れていた。さすが「晴れの国・岡山」である。でも「国」にしちゃまずいだろう、という気もしなくはない。
裏返せば雨が少ないってことだよな。
時刻は九時五〇分。
京子が近くの寂れた工場跡地に奈美、冴子、そしてちづるの三人を呼んだ。
それにしても、空き地の多い町である。それだけ寂れているってことだよな。まあ、変に再開発されていないだけましではあるが。
「何ですか?」冴子が訊く。「こんな時間に」
「いいから、こっちに来て」京子が手招く。古びたプレハブの建物の中へ誘っている。三人は彼女について中に入った。
そこには、布で出来た大きなシートをかぶせた物体があった。三つ並べてあった。かなり大きなものらしい。車だろうか?
「それは?」今度は奈美が訊いた。
すると京子はうちひとつのシートを取り払った。
「え!」驚く三人。
それは、何とジェット機だった。三機もある。
「どう?」京子がいう。「驚いた?」
うなずく三人。
ついでに「いつのまにこんなものをつくったんだ?」「この女は何者なんだ?」などとという疑念にも似た思いが、奈美たちの胸裏をよぎってゆくのだった。
「右から、ハイパーグライダー、エクセレントグライダー、コンプリートグライダーっていうの。一応色分けしてるわ」つづけて京子が解説する。残りの二つもシートを取った。三機とも見た目はほとんど変わらない。
一人乗りの小型ジェット機だ。小型ラムジェットエンジンを搭載。全長一六メートル。両翼三〇メートル。重量二〇〇トン。京子がつくった。敵の巨大ロボットに対抗するためのものだと彼女はいった。コンコルド旅客機のミニチュアみたいだった。
「コックピットを見せるわね」と開発者。
三人はコックピットの中をのぞき込む。京子が座って説明する。
なぜか、コックピットは球体だった。しかも全体がゆらゆらと動くようになっていた。若干乖離しているのだろうか。
球体の上下に棒がついている。コマみたいに外部が回転するようになっている。
京子は操縦席内部に入り込む。しかも立った状態で。背後にはすぐ壁があり、シートベルトがついている。前にはダッシュボードがあって、各種コントローラがポップアップするようになっている。
「乗ったら必ずシートベルトをしてね」京子がいった。「じゃないと、コックピット内を飛び跳ね回ることになるわ」
「…」奈美は何もいえなかった。
各種操縦装置は、ハイパーガールたちが強い力を入れても壊れないように強度設計されている。だから奈美たちは変身していないと、この乗り物を操縦することが出来ない。操縦桿が重たすぎるのである。この辺り、奇しくもダークソルジャー2と同じ仕様だった。
「ここにボタンがあるでしょ」京子がいう。赤色の枠で囲まれた四角いボタンがある。操縦桿の目の前だ。
「ええ」冴子がうなずく。
「これを押すと、変形するのよ」
「え?」奈美が首を傾げる。
「それで、自動的に三機が合体するように設計されてるわ」
「合体?」ちづるも首を傾げる。
「そう。合体して、巨大人型ロボットになるの」京子がいう。「名付けてハイパーロボってとこかしら」
「え…」奈美は返事が途中で止まった。ダサい名前だ。
「でも、空中で合体するのは難しいのよ」と京子。「まあ合体時には、壊れないようにみんなで祈っててね」
「…」奈美は静かになった。
「このときコックピットについてる操縦席安定化装置が作動するようになってるの。要するに地球ゴマの原理よ」
「操縦席安定化装置?」ちづるが再度首を傾げる。
「『コックピット・スタビリティー・デバイス(=Cockpit Stability Device)』。略して『CSD(しーえすでぃー)』よ」
「その、言葉を訊いてるんじゃなくて…」ちづるは戸惑った。
すると、京子は一回深呼吸をしてから説明し始めた。
「これによって、コックピットの重心が常に一定方向に向くから、操縦者の位置が不安定になることがないというわけ。つまり、コマみたいにバランスを取ってるのよ。
「それに、外部の衝撃が直接操縦者に伝わることがないの。これで、ロボットが飛んだり跳ねたりしても、多少はこのときの衝撃を吸収してくれるわ」京子がいう。「私って頭いい〜!」
奈美はなにも反応できなかった。
「それでも、まだ完全というところまではいかない」京子は元の口調に戻った。「だから変身して、壁にたたきつけられても大丈夫な状態で操縦してもらおうというわけなのよ」
結局いい加減なものだな、そう感じる三人だった。
「それって、コマみたいに席が回っているということですか?」冴子がそんなことをいった。「それじゃあ、中にいる人は目を回すんじゃないですか?」
シートベルトを外しながら京子が答えた。「回るのは軸になる部分だけで、中は一定してるわ」重心のことだろう。「席ごと回っているんじゃないから安心して」
「でも、外の鉄板とか装飾とかが回れば、結局目を回すんじゃないですか?」
「まあ、そうなったときは我慢してね」
「…」冴子は黙った。結局いい加減じゃないか。
なんて思っているところへ、
「大変だ!」
浩一から連絡があった。イヤホンから聞こえる。
奈美は耳をふさいだ。
「だから大声で怒鳴らないでよ…」
6
町には金属音が木霊していた。
再びダークソルジャー2が現れたのだ。
「もはやウイークエンド・ヒーローズなど恐れる存在ではなくなった」無線で達夫が連絡する。「我々の勝利は目前だ。思う存分暴れてこい」
「わかりました」コックピットでうなずくビクトリーガールだった。
「そうは行かないわ!」急にそんな声がした。メカのすぐ近くからのようだった。
「なに!」驚いたのは達夫だった。
「なんなの…?」空を見つめる祐子。
見ると三機のジェット機が現れた。ハイパーグライダーとその同型機二機であった。
ビクトリーガール「ふん、そんなものでこのマシンに対抗しようなんて甘い考えよ!」
奈美たちは互いに連絡を取った。奈美が四角のボタンを押した。座っている席の右横にある。
各ジェット機はジェット噴射をやめて合体してゆく。
「なんですって!」ビクトリーガールは目を見張った。
ハイパーロボが出現した。
身長七六メートル。体重三八七三トン。ちなみにどういう合体をするとそんな大きさになるのかは不明。物理学を無視したロボットだ。
顔の部分は角張っている。あまり格好いいものではなかったが、かといって醜いものでもない。腰に鞘が据えられてあった。どちらかといえば、戦国武士のごとき雰囲気であった。
「…なかなかやるじゃない」目前に登場したロボットを見て、ビクトリーガールは妙に感心してしまった。そうか、あちらにもこういうことを得手とする人材がいたのか。
「さあ、行くわよ!」ハイパーガールがいった。
ダークソルジャーは上空へと飛び上がった。それをハイパーロボが追った。
街中の上空で戦う二体のロボット。どちらも人型。
そのころ、東児島市役所には苦情の電話が殺到していた。
「おい、そらで変なロボットが暴れてるぞ。それでものすごく揺れるんだ。何とかしてくれ!」
「金属の音がやかましいんだ。やめるようにいってくれ!」
「一歳の娘が怖がってずっと泣きっぱなしなの。どうにかしてちょうだい!」
「俺ん家が壊されたんだ。弁償してくれーっ!」
そんな苦情を知ってか知らずか、市内上空での決戦は続いていた。
つまり知らないのだ。
「強いわね…」ハイパーガールがいう。場所はハイパーロボのコックピット。縦に並んで三人の女の子が各々操縦席に収まっているのである。
「弱点はないの?」彼女のすぐ下で2号が訊く。
ハイパーガールは前面の小型モニターを眺める。
彼女の前に操縦桿らしきものはない。あるのは、小型のTVモニタのみ。画面が三つに分かれている。画面の上半分に外の様子。ダークソルジャー2に攻められているのが確認できる。時折振動が伝わってくる。下半分は二分割され、それぞれ2号と3号の顔が映し出されていた。
「わからないわ」彼女は答えた。
「そうなの」
2号の席の下は大変だった。3号のコックピットがあるわけだが、その彼女が、ロボの手足と連動するスティックを駆使して敵とやりあっていたからだ。合体後は、3号の操縦席から各種デバイスをコントロールするのが一番効率がよいという京子の決断によるものだった。コンプリートグライダーの機体の位置がよかったためだ。
だから、ちづるに直接の非はない。
「とにかくがんばって、ちづるちゃん!」ハイパーガールがいう。そういうしかない。
「はい、がんばります!」ちづるが応答する。彼女は自分の仕事に密かに誇りを感じていた。がしかし、中学生の彼女にはまだ肩の荷が重すぎたようである。
ちづるは弱冠息が上がっていた。「ですが、もう限界です。何か別の方法はないんですか?」額に汗が光っている。
「うーん…」奈美は困ってしまった。
そこへ、
「私の目の前にボタンがあるんよ」イヤホンから別の声。2号だ。「説明付きで」
「何て書いてあるの?」
「必殺剣技『ハイパークロス』発動ボタン」
「…」言葉のない奈美。「でも、使ってみる価値はありそうだわ」そう思った彼女はちづるにいう。
「ちづるちゃん、剣を抜いて!」
「はい!」ちづるはスティックを操作する。
ハイパーロボは、一気呵成に敵から離れ、後退した。
「逃げる気ね!」ビクトリーガールはメカのコックピット内で叫んでいた。彼女は武士を追いかけようとして操縦桿を前に倒す。
ハイパーロボは腰に据えられてあった鞘から剣を抜いた。
「な、何よ? あれ」祐子は少し驚いた。動きを止める。
ハイパーロボの内部。
「みんな、行くわよ!」ハイパーガールがいった。「必殺剣技—」
あとにつづけて、三人が声をそろえた。「ハイパークロスッ!」
エクセレントガールがボタンを押した。
ハイパーロボは自動的に動く。そして剣を振りかぶり、目の前のメカを十文字に切り裂いたのだ。それもロボットとは思えぬ機敏な動きでもって。
「くそっ!」ビクトリーガールは脱出した。「無念!」
ダークソルジャー2は派手な爆音とともに海中に没した。
合体ロボの中の三人。
「や、やったわ!」狭いコックピット内で喜ぶハイパーガール。
「でも、この壊れまくった町はどうするんですか…?」コンプリートガールが淡々とした口調でいった。イヤホンから各ヒーローへ伝わる。息が荒い。
下を覗くと、そこには一部倒壊したビルディングなどが見えた。モニタにその貧相な姿が映し出されていた。
今回の戦闘は、只でさえ、騒音と鉄屑やら塵やら埃やらをまき散らしていた。またダークソルジャー2による家屋の破壊は、被害者にしてみれば寝耳に水といったところであろう。
そんなところに持ってきて、最後の振動でさらに町に追加ダメージを与えてしまったらしい。
「あとから付近の住民から訴えられそうね…」冴子がいう。
「…」素直に喜べなくなった奈美だった。
その五分後。テレビで緊急ニュースが入った。
「先ほど午後五時二六分、中国地方で強い地震がありました。震源地は東児島市沿岸で、震源の深さは五キロ。地震の強さを示すマグニチュードは五・三と推定されます。
「各地の震度はごらんのようになっております。岡山市で震度四の揺れを観測したほか、西日本の広い範囲で揺れを観測しています。
「なおこの地震による津波の心配はありません。繰り返します—」
7
翌日。月曜日。
なぜか町は完全に復活していた。
東児島第二高校にまたもや転校生がやってきた。普通科二年C組に編入してきた。
「名前は堀江祐子といいます」その女の子は軽く会釈した。長い直毛。色は黒。清楚な感じの子であった。「誕生日は一二月(じゅうにがつ)一四日(じゅうよっか)、血液型はO型です。趣味は映画鑑賞です」
だが、かわいい顔をして実は冷酷な性格の持ち主。
「どんな映画を観るんですか?」このクラスの担任である女性の教師が尋ねた。
「好きな映画は『オーメン』です」
教室内が引いたのは、いうもでもない。
彼女はホラー映画がお気に入り。
「すごいひとが転校してきたな…」孝夫はものがいえなかった。
冬の朝のことである。
次回予告
俊雄「今、人気のアーケードゲームがあるそうだぜ」
浩一「ああ、あのウイークエンド・ヒーローズをモチーフにしたゲームのことやね」
俊雄「今度やってみねえか?」
浩一「いや、やめとくよ。今は不景気だからねえ」
俊雄「…何の関係があるんだよ?」
浩一「とくにない」
俊雄「…」
浩一「どうした?」
俊雄「—さて、次回ウイークエンド・ヒーロー2第一四話『ウイークエンド・ヒーローズ不完全攻略ガイド』。正義は週末にやってくる—」
浩一「今は不景気だからねえ」
俊雄「…この予告と何の関係があるんだよ?」
浩一「とくにない」
俊雄「…」
1997 TAKEYOSHI FUJII